葛尾コラム:東北大学の植物工場を見学しました

2023年6月10日(土)、葛尾村復興交流館あぜりあでは「あぜりあ市」が行われましたが、そこにご出展頂いた東北大学大学院農学研究科で管理されている植物工場の見学会に参加してきました。

あぜりあ市の東北大学農学研究科のブース前に集まっている植物工場見学者。

この植物工場を管理していらっしゃるのは、東北大学の加藤一幾准教授。ハウスの中でマンゴーやトマトを最新技術を取り入れて栽培しています。

あぜりあの近くにありながら、なかなか見学する機会のない植物工場なので、筆者もワクワクしながらいざ出発です。

植物工場のハウスの前で加藤准教授の説明を受ける参加者。

ハウスは4棟あります。向かって一番右が倉庫、続いてトマト、マンゴー、マンゴーが栽培されています。これらのハウスは、温度・湿度・二酸化炭素をコンピュータで制御しています。当初はバナナやコーヒーも栽培していましたが、採算性などの観点からマンゴーとトマトに絞って栽培しています。

トマト(すずこま)

このハウスで栽培しているトマトは「すずこま」と呼ばれる品種で、普通のトマトと比較して2倍くらいのリコピンを含んでいます。すずこまは加熱調理して摂取するのに適していて、さらに油と一緒に食べると、体内でのリコピンの吸収力が高まるという特徴があります。

この「リコピン」とは、トマトに含まれる赤色の色素のことです。抗酸化作用に優れていて、健康的にも「老化抑制」や「生活習慣病予防」「動脈硬化予防」など様々な効果があると言われています。

トマトのハウスの中で説明する加藤准教授。

トマトのハウス内にはミストが出ていますが、これはハウス内の湿度を適切に保つためのものです。植物が光合成を行うためには、ある程度の湿度が必要になります。またこのミストにより多少温度を下げる効果もあります。温度に関しては、冷房機能はないもののハウス内の換気扇により空気を循環させ比較的熱い空気を外に逃がすような仕組みにしています。これら温度・湿度の制御は、すべて自動で行っています。

トマトの根元にはLEDライトが設置されていて朝晩に自動点灯しますが、これは光合成を促すためのものです。LEDは熱をほとんど持たないので、葉が焼けたりすることもなく、植物に悪影響を及ぼしません。

しいたけの菌床を手に取る加藤准教授。

このトマト栽培で珍しいところは、しいたけ栽培で使い終わった「菌床」を使っている点です。この菌床は、葛尾村内の坂口きのこ園さんから無料で譲り受けたもので、通常は捨てられるだけの産業廃棄物でしたが、地域の未利用資源を活用して栽培しています。菌床の中に生きているたくさんのしいたけ菌を土の中に入れてあげると、トマト栽培に適した土壌になります。化学肥料は使っていません。牡蠣殻のみ追加して、土の中のミネラルとカルシウムを補給しています。この土壌により廃菌床を分解する微生物が増え、植物生育の促進が図られるため、トマトの生長に大きく寄与しています。ちなみにこの土壌で5作ぐらい土の交換をせずにトマトを栽培しているそうです。微生物のパワーは年月を越えて衰えないんですね。

水やりは、土壌の水分量をコンピュータが測定することにより自動で制御しています。トマトの根元にめぐらされたホースに穴が開いていて、適切な量の水が与えられるそうです。また遠隔操作で水を出すこともできるそうです。

マンゴー

一般のマンゴーは、6月〜8月くらいが収穫期ですが、いまこの収穫期を遅らせるという試験をしていて、去年の実績では、10月〜12月頃に収穫することができました。この時期に収穫すると、年末のお歳暮商戦に合わせることができるので、価値を高めて売ることができると考えています。

授粉用にハウス内に放たれたハエ。

マンゴーの受粉は、ハウス内にクリーン培養されたハエを放ち行っています。マンゴーの花は開花後に腐敗臭を出し、この匂いにハエが引き寄せられます。このため、人工授粉をせずともハエの力で受粉を行うことができます。

このハウスの中では、マンゴーが5品種栽培されています。アーウィン・キーツ・金蜜・レッドキーツ・夏雪の5品種です。アーウィンは一般的なアップルマンゴーのことで日本国内で最も多く栽培される品種です。金蜜は糖度が20度以上になるとっても甘い品種です。

マンゴーの房。

マンゴーはひと房にたくさんの実を付けますが、甘くて美味しい果実を作るために、ひと房に1つのみ残しあとは間引きます。間引いた実はジャムなどに加工できるそうです。

まとめ

途中雨が激しくなり、質疑応答もそこそこに解散となってしまいましたが、ふだん見ることのできない植物工場を見学することができ、貴重な時間となりました。トマトやマンゴーの他にもミニカリフラワーなど葛尾村のブランド化を目指す取り組みを、応援していきたいと思います。