2021年11月3日、江戸時代に披露されていたと伝えられている能と狂言が葛尾大尽屋敷跡公園の美しい紅葉に包まれた特設舞台で開催され、約240人が鑑賞しました。

葛尾大尽屋敷跡公園の本宅跡付近に設営された能舞台。大勢の方がご来場されました。

葛尾大尽屋敷は、製鉄や生糸で栄えた江戸時代の豪商「松本一族」の邸宅のことで、現在は葛尾村が公園として整備しています。

江戸時代の葛尾大尽屋敷では、お客様をもてなすのに能や狂言が開催されていた記録が残されていますが、大尽屋敷が2度の火災などにより没落したあとは開催されることがありませんでした。

しかし、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に伴って全村避難し荒廃した葛尾村として、復興の道を歩む村の魅力の発信するとともに地域活性化につなげようとして能・狂言を開催する機運が高まり、2019年9月に約160年ぶりに開催され、今回が2回目の開催となりました。

狂言「盆山」を演じる演者
同じく狂言「盆山」を演じる演者
真っ赤に色づいた紅葉の脇に設営された能舞台
能「経政」を演じる演者
同じく能「経政」を演じる演者
あぜりあからシャトルバスに乗り込む来場者

オープニングアクトとして元気なかつらおプロジェクトにより人形劇「葛尾大尽物語」が上演されました。その後、開会のあいさつののち、第一部で子ども仕舞「高砂」「養老」「嵐山」が披露されました。

第二部に入ると、まず狂言「盆山(ぼんさん)」を、 善竹大二郎さん川野誠一さんが演じました。狂言とは2人以上の人物による対話と所作を用いた演劇で、物まね・道化的な要素を持ち、失敗談を中心としたシナリオおよび、様式をふまえた写実的ときには戯画的な人物表現を通じて、普遍的な人間性の本質や弱さをえぐり出すことで笑いをもたらします。(Wikipediaより)

この日演じられた狂言「盆山」のストーリーは、盗みに入った男が家主に見つかりそうになり物陰に隠れますが見つかってしまいます。家主は物陰に隠れたのは犬だ猿だと揶揄いますが、物まねをして切り抜けます。しかし最後に「鯛だ」と言われ困った盗人、どんな鳴き真似をするのか!?というものです。

プログラムの最後に、能「経政(つねまさ)」を重要無形文化財保持者で大鼓方高安流の能楽師白坂保行さん、シテ方宝生流の能楽師久貫弘能さん夫妻らにより上演されました。先ほどの狂言と異なり、能は日本の伝統芸能である能楽の一分野で、面と美しい装束を用い専用の能舞台で上演される歌舞劇と言えます。笑いの面を受け持つ狂言とは異なり、能は人間の哀しみや怒り懐旧の情や恋慕の想いなどを綴ったストーリーとなります。(能楽協会のホームページより)

この日演じられた「経政」は、源平合戦で討ち死にした平経政が、燈火の光の中に現れた経政の幽霊が手向けの琵琶をかき鳴らし楽しく過ごしていましたが、戦をしていた人が落ちる地獄の苦しみが突然襲ってきて、その姿を見られてしまったことを恥じ入り、燈火を吹き消し暗闇に姿を消すという悲しいストーリーです。

事前申し込みされた約240人の来場者は、葛尾村中心部に車を停め、復興交流館あぜりあから無料シャトルバスで大尽屋敷跡公園に移動しました。小春日和の秋晴れの中、真っ赤に色づいた紅葉をバックに披露された能・狂言に感動している方が多くいらっしゃいました。